Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
「……正直に言うと、"わからない"」
「え」
予想外の言葉に、エレンは目を見開く。
エミリは正直に答えた。
ただし、答え方を間違えないように。
「難しいよね、そういう事って……私も、何が正しくて最善なのか……ずっと考え込んでいた時期があったよ」
いつまでも立ち止まったままではいられない。
少しでも、一歩でも前に進まなければ……その為にはどんなやり方が一番手っ取り早いか、ずっと悩んでいた。
「……でも、ある時気付いたの。きっと"努力"っていうものは、膨大な時間のことを示しているんじゃないかって」
「…膨大な、時間……?」
難しい物言いに、エレンは首を傾げる。
「そう。成果なんて、そんなに早く出るものじゃないし、そういうのって人それぞれなんじゃないかな。結果が出る時期だって、同じことだと思う」
努力したら必ず報われるわけじゃない。けど、いつかきっと報われる。
でも、その"いつか"が遠過ぎて……結局、最後は諦めてしまう人もいる。
「だからこそ、思うんだ……どんなに辛くて、投げ出したくなっても、何かを続けていくことが一番の才能なんじゃないかって」
「……続けていくこと…」
「そう。エレンは『何も無い』なんて言うけど、そんなことないと思う」
何度も言うが、エレンは頑固な子だ。時と場合によっては、聞く耳を持たないこともある。
けれど、長所と短所は紙一重。
エレンのその頑固な所は、自分の意思をしっかり持ち、それを必ず貫いていくという粘り強さがある。
「私ね、実を言うと……エレンのことそんなに心配してないよ?」
「え?」
「エレンなら、どんな事があってもきっと最後までやり抜く。出来るようになるまで、何度だって挑戦する。だって、私と同じくらい頑固だから」
エミリがそう言って微笑んで見せると、エレンは恥ずかし気に目を逸らす。
エレンなら、分からなくても現状を打破するために突っ走っていくだろう。
そうやって、どんどん人を追い抜かしていくだろう。
「……姉さん」
「ん?」
「あり、がとな……」
ポリポリと人差し指で頬を掻きながら、感謝の言葉を口にするエレン。そんな可愛い弟にハートを打ち抜かれたエミリは、またもやエレンの頭をわしゃわしゃと撫で回した。