Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
席に着いたエレンは早速メニュー表に齧り付き、何を食べるか考える。そんな弟が可愛くてエミリは思わず頭をよしよししたくなるが必死に我慢した。
「迷ってる?」
「……うん」
「エレンの好きなチーズハンバーグもあるけど」
「え!?」
メニュー表から顔を上げ、エミリを見るエレンの瞳は嬉しそうに輝いていた。そんなエレンに、エミリはページを開いて見せる。
「チーハン……!!」
"チーズハンバーグ"と書かれている欄に目が釘付けになるエレンだが、その隣に記されている値段を見て固まる。
「……姉さん、値段、結構するけど……」
「まあ、ハンバーグって肉だからね」
プラス、とろ〜りチーズ乗せだ。それなりの値段はするに決まっている。
エレンは悩んだ。金をとるか、チーハンをとるか……
(……どうする、俺!)
思い出すのは初めてチーハンを食べた時のこと。あの頃はエレンも幼かった。
両親に外食に連れられ出会ったチーズハンバーグ。一口食べた時の衝撃と感動は今でも忘れられない。
(そうだ……! お金!!)
エレンはポケットから財布を取り出し中を確認した。
一枚の札と三枚のコイン。
「…………シチューでいいよ」
ガックリと肩を落とし、エレンは財布をしまった。
「え、何で?」
「金が……無いからに決まってるだろ!!」
キョトン顔で頬杖を付くエミリに、エレンはバンっと机を叩いて声を上げる。
三、四年振りにチーハンを食べられるかと思ったのに、そんな淡い期待は一瞬にして打ち砕かれた。
「何言ってるのよ。お金くらい私が出すわよ」
「…………え?」
「当たり前でしょ、姉弟なんだから。弟の分払ってあげない姉が何処にいるっていうのよ」
「……いや、その考え方、多分姉さんだけ」
下の子は可愛くて当然。だから下の子が何かを買う時は上の子がお金を出す。エミリの中ではそれが自然の摂理だと思っているのだ。
「でも、姉さんは金……大丈夫なのか?」
「お給料貰ってるし、ちゃんとエレン用にお金分けてあるからね!!」
「しなくていい!!」
(どこまで甘やかせば気が済むんだこの人は……俺が無茶して説教する時はゲンコツ入れるクセに!)
心の中で悪態を吐きながらも、チーハンを注文するエレンであった。