Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
「ふふ、エレン身長伸びたよね? 今何センチ?」
「……165」
「そっかぁ。とうとう越されちゃったか」
エミリの身長は155cm。入団式前夜に会った時は僅かだがエミリの方が身長はあった。一年であっという間にエレンに抜かされてしまった。
弟の成長は嬉しい。けれど、エレンを膝の上に乗せて、後ろから抱き締めることは出来ないと思うと、少しだけ寂しくも感じた。
男の子の成長はこれからだ。どんどん大きくなっていくだろう。
「そういえば、ミカサとアルミンは元気?」
そこで思い浮かぶのは、養妹のミカサともう一人の弟の様な存在であるアルミンだ。
「ああ、元気だ。ミカサなんて、俺と一緒に姉さんの見舞い行くって聞かなかったんだよ」
「そうなの? 嬉しいなあ」
「あのなぁ、こっちは止めるのに一苦労だったんだぞ!」
いつもエレン一番なミカサだが、彼女にとってもエミリは掛替えのない存在だった。ミカサもエミリのことは、実の姉のように慕っている。
今回の話をエレンを通して知ったミカサは、「私も行く!」と言い張り、昨日までキースに有給を貰うために詰め寄っていた。
しかし、あくまでこれは監視の一貫。許可を得ることはできなかった。
「今朝だって、『姉さんにお大事にって伝えておいて……』って涙ぐみながら言うんだぜ」
別に今にも死にそうという訳でもないのに(全治三ヶ月の入院ではあるが)、いちいち大袈裟なミカサにエレンはやれやれと溜息を吐く。
「私にとっては嬉しい話だけどなあ」
「本当に大変だったんだからな!」
「はいはい。ところで、訓練の方はどうなの?」
エミリがそう聞いた瞬間、エレンの顔が強ばった。何かあったのだろうか。
(もしかして……お友達と仲良くできてない、とか?)
十分に有り得る話だ。エミリ自身もそうだったし、エレンもアルミン以外に友達は作れなかったから、同期たちとの間に壁があってもおかしくはない。
「……まあ、普通……」
エレンはそう言うが、強がっているのはバレバレだ。何より耳が少し赤い。
(まったく、お姉ちゃんを誤魔化そうなんて100年早いぞ、エレン……)
きっと、情けない姿を見せたくないのだろう。けれど、そうやって意地を張られると余計に手を差し伸べたくなった。