Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
エミリとエレン、二人だけの空間に静寂が覆う。
エレンは、久しぶりに会った姉とどう言葉を交えていいかわからずベッドの隣で突っ立っていた。
少し緊張しているエレンの様子に、エミリはクスリと微笑むと近くに置いてある椅子に指を差す。
「エレン、そんな所に突っ立ってないで座ったら?」
「……うん」
エミリに促され、控えめに頷いたエレンは、荷物をソファへ置いてから椅子に腰掛ける。
「朝ご飯は食べた?」
「まだ……」
「だと思った。壁外調査に出るのはいつも早朝だから、それに間に合うように急いで門まで出てきたんでしょ?」
理由を話す前に当てられた。
流石姉と言うべきなのか、それともこれは単にエミリがブラコンでエレンのことを知り尽くしているからか……おそらく両方だろう。
「私も朝ご飯まだなの。エレンと一緒に食べようと思って」
そう言って、机の上に置いてあるシチューやパンに目をやる。
疑問形でなくきっぱりと言い張るエミリの言葉にはやはり姉らしさがあって、エレンは少しむず痒かった。
これが幼い自分だったならまだ素直に喜んでいたかもしれない。これも思春期特有の反抗期からきているのだろうか。
「じゃあ、ご飯食べよっか!」
「うん」
口数の少ないエレンに苦笑を漏らし、エミリはいただきますと口にしてからスプーンを手に持つ。
同じように、エレンも挨拶をしてからパンを手に取った。
「なんだか久しぶりね。こうして二人で食事するの」
「そうだな」
思えば、エミリが訓練兵団に入ってから、姉と過ごす日は数回ほどに減った。たまに家に帰って来ることもあったが、月に一度のペースだった。
ミカサがイェーガー家へやって来た時は、三日ほど休暇を取り、駆けつけてくれたこともあった。
シガンシナが陥落して以降は、更に会う機会がうんと減った。
そして、各々が訓練兵団、調査兵団に入団してからはこの通り、一年ぶりの再会である。
「エレン、大きくなったね」
「な、なんだよいきなり!」
瞳を潤ませ、わしゃわしゃとエレンの頭を撫でれば、エレンはパンを食べる手を止め講義する。
子供扱いされているみたいで嫌だったが、それはやはり恥ずかしさからきているのであって、エミリのその行為が嫌いなわけではない。