Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
「エレン、いらっしゃ〜い!」
病室へ足を踏み入れる看護師に続きエレンも中へ入ると、そこには怪我をしているのが嘘だと思うほどピンピンしたエミリが、ベッドの上で手を振っていた。
そんな彼女の頬は緩みまくっている。
人の気も知らないで呑気なエミリにイラッときたエレンは、ズカズカとベッドの隣へ歩み寄る。
「『いらっしゃ〜い』じゃねぇよ!!」
早速、エレンが飛ばすのは文句。キースから事情を聞いた時から、これでも結構心配していた。
なのに、だ……当の本人はヘラヘラと笑ってエレンとの再会を喜んでいるだけだ。
「何してんだよ姉さん!!」
「何って……エレンに手を振ってる」
「そんなの見りゃ分かるよ! そうじゃなくてっ」
「はいはい、分かってる。何で橋から飛び降りたのかってことでしょ?」
分かってるなら最初からそう言え。喉まで出かかった言葉を呑み込む。エレンも、エミリには散々心配を掛けてきたから人のことなど言えない。
そう思ったから、言わなかった。
「後でちゃんと説明するから。ね?」
「…………わかったよ」
申し訳なさそうな顔で、エレンを諭すように話すエミリの声色は優しくて、懐かしくて……姉弟で過ごした幼い頃の記憶を呼び寄せる。
「エミリちゃん、今日と明日のことだけど……」
そこに、微笑ましそうに二人のやり取りを見ていた看護師が、今後の予定へ話題を変える。
「弟さんが来るという事で、今日と明日は先生から外出許可が出たわよ」
「え、ホントですか!?」
「……ていうか、外出禁止にされてたのかよ」
どれだけ重症だったんだ。
エレンの表情にあるのは呆れだけだ。
「ただし、絶対に無理はしないこと! それが守れなきゃ、退院するまで外出はさせないからね!」
「わかってまーす」
「まったく……じゃあエレンくん、エミリちゃんのこと、お願いね」
「はい!」
ニコリと微笑んだ看護師は、そのままエミリをエレンに任せて、病室を出て行った。