Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
メモを頼りに病院へ辿り着いたエレンは、院内へ足を踏み入れ受付の方へ足を進める。
受付の人に苗字を伝えれば通してくれるとエミリからの返事の手紙に書いてあった。
取り敢えず、書き物をしている若い女性の看護師に声を掛ける。
「……あの、すみません」
「はい……あら?」
エレンの声に反応し、顔を上げた看護師は驚いた様に目を丸くした。
「貴方……もしかしてエミリちゃんの弟さん?」
「あ、はい! そうです!!」
「やっぱり! とても顔が似ているから、すぐに分かったわ」
看護師の言葉に、そう言えばとエミリの手紙の内容を思い出す。
『多分、苗字なんて言わなくても分かると思うけどね』と、添えられていたはずだ。その時は理解できなかったけれど、今やっと分かった。
「そ、そんなに似ていますか……?」
「ええ、とっても」
エミリもエレンも母親似で、昔からよく似ていると言われたことが多かった。
エレン自身はそんなこと思っていないが、アルミンやミカサ、フィデリオまで同じ事を言うためこれはもう認めざるを得ない。
「私、エミリちゃんの担当看護師なの。今から病室へ案内するわね」
「はい、お願いします!」
看護師に連れられ、エミリの病室へ案内される。
この病院には、子供から老人まで多くの人が訪れているようだ。
白衣を羽織った医師と親しげに話をしている。そんな患者の表情は皆笑顔だ。
そんな光景を見て思い出すのは父のこと。
医学のことは難しくてよく分からなかったが、それでも父が優秀な医者だということは、幼かった自分でもよく分かった。
三年前のあの惨劇があってから、グリシャは行方不明。おそらく、死んでいるだろう。それでも、生きていて欲しいと願わずにはいられない。
「こちらが、エミリちゃんの病室よ」
「あ……はい!」
ぼーっと考え事をしていたエレンは、看護師の声で意識を現実へ引き戻す。
看護師が病室の扉をノックし声を掛ける。扉の奥から、「はーい」と返すエミリの声。
一年ぶりに聞くそれに、何だか懐かしくなった。