Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
あっという間の二週間。
エレンは病院の場所と名前が記された紙をキースから受け取り、朝食を持って早くに街に出ていた。
いつも姉にお守りをされていた自分が、姉の見張りをすることになるなど夢にも思わなかったが、どんな理由であれ、直接会うのは一年ぶりだ。正直、楽しみだがそれを言ったら同期たちに冷やかされるどころか、エミリが調子に乗るため自分だけの秘密だ。
病院へ向かう前に少し寄り道をする。エレンが足を進める場所は壁の門だ。
今日は壁外調査。憧れであり、目標である調査兵団の姿をどうしても見たかった。兵舎を早く出た理由はそれだ。
門へ到着すると、既に馬に乗った調査兵団の兵士達が待機していた。
民衆は『巨人共をやっつけてやれー!』と声を上げている者もあれば、今回も税金の無駄遣いだと冷たい言葉を投げる者など、反応は様々だ。
けれど、今はそんな民衆の声に耳を傾けている場合ではない。
エレンは目を凝らして、ある人物を探す。
「!」
そして見つけた。
調査兵の中でも一際違うオーラを放つ、自分の憧れの人物を──。
(……あれが、リヴァイ兵長!!)
すぐに誰か分かった。
彼が持つ貫禄は、最強そのものだったから。
彼の名が世間に知れ渡ったのは二年ほど前。人類最強の兵士が現れたという新聞の記事を見た時の衝撃は今でも忘れない。
こうしてリヴァイを見たのは初めてだ。
「……姉さんに感謝しなきゃな……」
リヴァイのことは、これまでも手紙を通してエミリから話を聞いていた。
初めて彼の話題を持ち出した時、手紙には『リヴァイ兵長ってどんな人?』と書いただけだった。
それから、毎回手紙には必ず二言、三言はリヴァイのことを書いてくれた。どんな人物なのか、壁外ではどう戦うのか……色々なことを。
流石姉と言うべきか、たった一言でエレンがリヴァイに憧れを抱いていることを悟ったらしい。
今回も、姉の様子が気になって三ヶ月振りに手紙を出した。その返事の手紙には、『病院に来る前、リヴァイ兵長を見ておいで』と書かれていた。ちゃんと場所も記してあった。
そんな姉の気遣いは、素直に嬉しかった。
良い姉を持ったと思う。が、それを伝えれば調子に乗るからやっぱり言わない。というか、恥ずかしくて言えない。
エレンは調査兵団が壁外へ出るまで、ずっとリヴァイの背中を眺めていた。