Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
「何ニヤニヤしてやがる。気持ち悪ぃ」
またもや良からぬ事を考えているハンジを見ながら、リヴァイは顔を歪める。
「おい、フィデリオ」
「はいっ!」
「こいつは前からこんな感じなのか……」
「……そう、ですね……」
フィデリオの回答に、リヴァイは溜息と共に肩を落とす。
ハンジの変人が感染しただけだと思いたかったが、エミリのこの反応は元からだ。
エミリが調査兵団へ入って一年、もしかしたら彼女がハンジの元でやってこれたのは、案外この変人という性質が似ていたからなのかもしれない。
類は友を呼ぶならぬ部下を呼ぶ、ということだろうか。
「エミリは本当に弟のことが大好きなんだねぇ」
「はい!! 大好きです!!」
今までハンジの話が聞こえていなかった様子だったはずが、エレンの話題になるとすぐさま反応を見せる。
(こいつ、どんだけ都合の良い耳してんだ……)
「もう……エレンってば、すっっっごくカワイイんですよ!! あの子がまだ3歳の時なんかですね──」
(なんか語り出しやがった……)
暴走したまま止まらないエミリに、リヴァイは心の中でツッコミを入れることしか出来ない。
エミリの愛しい弟との思い出話は、ハンジの巨人話並に長くなりそうだ。
「──それで、『おいで』って手招きしたら、ちょこちょこ歩いてきて、私の膝の上に乗ってくれたんです!! だから私は、そんなかわいくてちっさいエレンを後ろからギュッて抱き締めて……」
無表情でエミリを眺めるリヴァイやその隣で諦めの表情を見せるフィデリオを放って、ニコニコと微笑むハンジに、エミリは長舌を振るう。
結局その日、彼女のエレントークは日が沈んだ後まで続いた。なかなか口を止めないエミリにリヴァイが鉄拳を入れることで黙らせた。
余談だが、後にこの衝撃的事実は「エミリ・奇行種疑惑」として、同期や上官たちの間で噂されることになるのであった。