Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
ハンジとリヴァイの二人が、ベッドの上でウキウキとはしゃぐエミリを静観していると、ガラガラと病室の扉が開く。
担当の看護師だろうか。確認してみると、そこには彼らの部下でありエミリの幼馴染のフィデリオが、袋を片手に入口に立っていた。
「おーい、エミリ〜……って、リヴァイ兵長! ハンジさん!?」
上官の姿を目で捉えたフィデリオは、慌てて敬礼をする。
二人がエミリの見舞いへ来ていることは知っているし、ホフマン家との一件もエミリから話を聞いていた為、彼らが病室に居ることに驚いた訳ではない。
今はまだ昼過ぎ。いつも夕方頃にやって来る二人が、今日は珍しくこの時間帯に訪れている事に驚いたのだ。
「あ〜、いいよ! そんな硬くならなくて! それよりさ……ちょっとこの状況説明してくれる?」
「え?」
ハンジの指差す方へ視線を動かせば、未だに「エレ〜ン」と愛しい弟の名を呼び続けるエミリの姿が目に映る。それで大方の事情は察した。
「……ハンジさん、エミリにこいつの弟絡みの話でもしました?」
「ん? うん。エミリの監視役、彼女の弟君に決まったからその報告を……」
「そういう事か……」
やっぱりなと頭に手を当て、フィデリオは盛大に溜息を吐いた。
やはり幼馴染だけあって、エミリのことをよく知っている。何たって別人のようにはしゃぐ彼女の姿を見ただけで、状況を理解出来たのだから。
「……実は、エミリのやつ弟のことすげー溺愛してまして……その上めちゃくちゃ過保護だし、弟のことになると急に人が変わったようにはしゃぎ出すんですよ」
「あら〜……そうだったんだね」
フィデリオの解説にハンジはようやく納得した。
確かに、エミリに弟がいることや、その子──エレンをとても大切にしていることは、前々から彼女に聞いていた。
聞いていた、が……まさか、こんなにも別人へと豹変してしまうのか。
驚きと同時に、ハンジは新しい"楽しい事"を見つけた気分になった。