Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
「───というわけで、エミリの監視役は君の弟君に任せることになったからさっ!」
カラン……
ハンジの言葉に、エミリはデザートを食べていたスプーンを机に落とす。じっとハンジを見たまま動かないエミリを不思議に思い、おーいと声を掛けた。
「エミリ? 大丈夫?」
「………………ハンジさん……」
「ん?」
「その話……本当ですか? 弟が来るんですか?」
「え、うん! そうそう、君の弟君が監視役……!」
ハンジがもう一度同じ内容を繰り返せば、エミリは顔を俯かせる。え、もしかして嫌だったの? 今ケンカ中? とハンジが焦り始めた時、
「やっ……たぁぁぁ!!」
両腕を上げて突然声を上げるエミリに、ハンジと、共に見舞いへ来ていたリヴァイがギョッとする。
「ふふ、エレンに会える〜!!」
両手を頬に当て、クネクネと体を動かす姿は異様な光景だ。頬は薄らと紅潮するだけでなく緩んでいる。完全に変人と認定されるレベルだ。
勿論、そんな見たことないエミリの姿にリヴァイとハンジは目を見開き、呆気に取られていた。
「ちょっと……? エミリさーん?」
「エレン〜! エレン〜!!」
かわいいかわいい弟の姿を脳裏に浮かべ、完全にエレンワールドに入り込んでいるエミリにハンジの声は届かない。
というか、普段のエミリからは想像出来ない程の別人ぷりに、二人は目を疑った。誰だコイツ! 状態だ。
「えっと……」
ハンジは「参ったなぁ〜」と頭を掻く。
そうなっても仕方が無い。なぜなら今のエミリは、まるで巨人絡みで暴走する自分とそっくりだから。
いや、対象が人間なだけエミリの方がまだマシなのだろうが、普段とのギャップに戸惑う。