Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
「……この手紙に目を通した時、流石の私も驚愕した」
キースの顔には呆れが表れていた。
姉のエミリは、キースの教え子でもある。だから彼も、エミリの性格や考えをよく理解していた。弟であるエレンも流石姉弟と言うべきか、彼女とよく似ている。
姉弟揃って無茶をする子供だとは思っていたが、今回の報告はキースも思わず頭を抱えた。
「そこでだ……二週間後、二日間の壁外調査が行われる。勿論、エミリは参加しないが、彼らが壁外へ出ている間、またエミリが勝手に無茶をしないよう、弟であるお前に付き添ってほしい、との事だ」
「……要するに、それは監視って事ですよね?」
「そうだ」
エレンは再び頭を抱えた。そして心の中で叫んだ。
本当に何やってんだよ姉さん!
それじゃ、問題児じゃねぇか!!
とんでもない事をしでかしてくれたものだ。
自分の無茶も大概だが、エミリも人の事など言えない程だろう。
「……二週間後、ですね……?」
「ああ」
ガックリと項垂れるエレン。そんな彼に同情しつつ、キースはエレンの空になったティーカップに追加の紅茶を注ぐ。
取り敢えず温かいものを飲んで落ち着くべきだ。
「エレン」
「はい……」
キースが名前を呼ぶと、エレンは紅茶を飲みながら疲れた表情で顔を上げる。
「エミリと会うのは、いつぶりだ」
「……え、もう……一年は経ってますけど」
「そうか……なら、たまには姉弟水入らず、ゆっくり過ごして来い」
「あ、はい……!!」
キースから発せられた意外な言葉にエレンは驚いた。
窓の外を眺めるキースの脳裏に浮かぶのは、彼がまだ若い頃の記憶。
そう言えば、この訓練地で教官を務めることとなり、エミリと出会った時はかなり驚いた。
エミリは本当に、自分の想い人であったカルラによく似ていた。エレンも母親似だが、エミリとの違いは考え方やその瞳に秘めるもの。
エレンにあるのは、巨人に対する強い憎悪。
エミリにあるのは、生き物に対する優しい愛情。
似ているようで違う姉弟のまだ見ぬ未来へ思いをめぐらせ、キースは教官室を出て行くエレンの背中を見送った。