Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
「……はっ……くっしゅん!!」
一つクシャミを飛ばした少年は、ブルリと体を震わせ腕を摩る。
ここは、ウォール・ローゼ南方面駐屯区の訓練兵団。
正式配属前の訓練生が、立体機動装置を始め、対人格闘術や巨人についての基礎的な知識を学ぶため日々訓練を受けている。
ちなみに、今クシャミをした少年の名は、エレン・イェーガー。
彼も南区の訓練兵団に所属する104期生の一人である。
(……風邪でも引いたか……?)
これでも妥当巨人に向けて、毎日毎日厳しい訓練を積んでいる身だ。簡単に風邪を引く程貧弱ではない筈だが。
鼻をすすり、エレンは重い足取りで教官室へ向かう。
何故、彼が教官室へ向っているか。
それは勿論、この南区訓練兵団の教官を務めるキース・シャーディスに呼び出しをくらったからだ。
(……ジャンと揉めてたのがとうとうバレたか……?)
何となく、心当たりはある。
同期であるジャン・キルシュタインとは、目指す兵団や考えの相違から、訓練兵団に入団した時から馬が合わず揉み合いになることが多かった。
かれこれこの地で訓練を受けもう一年が経ったが、未だにジャンとの関係は変わらない。
これまで掴み合いになっても、幼馴染のミカサやアルミン、頼りになるライナーやマルコ達が上手く誤魔化してくれたお陰で何とか教官にバレずに済んでいた。
いや、もしかしたら、気づいていて様子を見ていただけなのかもしれない。しかし、もう入団して一年。後輩だって入ってきた。そろそろキースの堪忍袋の緒が切れたのかもしれない。
(じゃあ、何で俺だけなんだ?)
既にジャンは呼び出されていたのか、それとも自分の方が先なだけか。
色々と疑問はあるが、取り敢えず考えていても仕方が無い。エレンは教官室の扉の前に立つと、一つ大きく深呼吸をしてノックをした。