Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
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「……そうだったんですか」
「不思議な子ですね。エミリさんという女の子は……」
貴族との付き合いの中で、心の底から信頼できるような人間はエーベルしかいなかった。
同い年で同性の者と会って言葉を交わしても、気の合うような人はいなかった。実に貴族らしい考えと暮らしを求める者達と溶け合うことなど出来もせず、周りもまた、シュテフィの考えと同調する者などいなかった。
だから新鮮だった。
エミリという、明るく前向きに突っ走って行く……猪突猛進な彼女が。
「あの子は……人を惹き付ける力を持っています」
その言葉にハンジは思い出した。
エミリと彼女の愛馬であるリノを合わせた時のことを……。
あの時、ハンジもシュテフィと似たようなことを思った。
エミリは『人や生き物を動かすチカラを持っている』と。
「……確かに、そうですね」
シュテフィの言葉に頷き、ハンジはエミリと言葉を交わすリヴァイを目に映す。
脳裏に浮かぶのはリヴァイが調査兵団へ入団した時のこと。
今はあの頃と違い、調査兵として、兵士長としての志も高く、屈強な兵士として生きるリヴァイだが、彼の心に脆い一面があることをハンジは知っている。
共に入団した彼の仲間である、ファーランとイザベルが隣にいた時は、もっと柔らかい表情を見せていた。
そんな彼らを失った時の悲しみは、相当堪えただろう。
それからだろうか、リヴァイの中に仲間や部下を思う優しさはあっても、ファーランやイザベルのように、心から気の許せる存在を隣に置くことは無かった。
それは、また大切な人を失うことが怖いからかもしれない。だけど───
「ね、エルヴィン」
「何だ?」
「エミリと居る時のリヴァイ、何だか穏やかな表情をしているね」
「……そうだな」
時折垣間見せる、優しい表情。
それは、彼が"孤独"になってから初めて見せた顔。
「もしかしたら、エミリなら彼の氷を溶かしてくれるかもしれないな」
「そうだね……」
冷たく冷たく、凍てついてしまったリヴァイの心。
きっとエミリの太陽のような、温かい笑顔がそれを溶かしてくれる。
二人の姿を見て、そう、確信した。