Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
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「…ハハハハ……!!」
エミリが飛び降りた姿を見たベーゼ家の男が、狂った様に笑い始める。
「まさか……こんな場所から飛び降りる奴がいるなんて……流石、変わり者の調査兵団の兵士だ……ククッ!!」
その瞳や表情には蔑みや呆れが表れていた。それとは反対に頭に手を当て、腹を抱え、笑い声を上げる姿はまるで、余興を楽しんでいるかのような……冷たい態度。
「……あっ……エミリ、さん……」
そんな彼を他所に、シュテフィは地面へ座り込み両手を口元に当て、橋の向こうへ視線を向けていた。そんな彼女の身体は酷く震えていて、驚きと恐怖で流れていた涙は止まっている。
「フッ……実に良い……! こんなにも素晴らしいショーは初めてだ!! そうしてもっと私を楽しっ……!?」
男の言葉が途切れた。
急に止んだ男の声に、シュテフィも彼の方へ視線を動かす。
彼女の目に映ったのは、リヴァイが男の胸ぐらを掴み上げていた光景だった。
「ぐっ……何をっ…! 私は、貴族……だぞ!!」
リヴァイの手首を掴み、苦しそうに呻き声を上げる男だが、リヴァイはそんなのお構い無しに口を開く。
「はっ、それがどうした……確かにあんたが思ってる通り、あいつはこんな所から飛び降りるような馬鹿だ。だが、それはあいつが大切に思う奴のためにやったこと……まあ、てめぇには分からねぇだろうな」
大好きだったエーベルと、その大好きな彼が愛したシュテフィのため……二人の幸せのためにとわざわざ男が投げ捨てた指輪を危険を冒してまで取りに行った。
余程の勇気が無ければ、20mもあるこの橋から飛び降りるなんてできない。
「それを『素晴らしいショー』だと……? ふざけんじゃねぇ……」
胸ぐらを掴む手に、ギリギリと力を込める。
リヴァイが男に向ける目は鋭く、相手を怯ませるには十分なほどその瞳には怒りが入り交じっていた。
「……わ、わかった……やり過ぎたと、思っているさ……だ、だから、早く離したまえ……! ぐぅっ」
「『やり過ぎた』? そんな簡単な言葉で片付けられるのか……てめぇら貴族の考えが全く理解できねぇな」
リヴァイは手を離し、男を解放する。
地面に転げ落ちた男は、喉に手を当て必死に酸素を取り込んでいた。