Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
「健気だねぇ」
エーベルと話をしてから食事に食いつくエミリと、そんな彼女に無表情でついて行くリヴァイを眺めながら、ハンジはボソリと呟いた。そんなハンジの隣でワイングラスを傾けるのは、エルヴィンとミケだ。
「彼のことと言い、橋から飛び降りたことと言い……ここぞという時は自分よりも誰かのために、か」
「彼女らしいと言えばそうだな」
楽しそうに食べ物に齧り付くエミリの表情には、迷いも無ければ後悔も無い。そんな様子からエルヴィン達も、彼女が吹っ切れたであろう事が見て取れた。
「そう言えば……さっきシュテフィさんがエミリに話していたことですけど……」
そこでハンジは、共にエミリ達の様子を隣で見ていたシュテフィに疑問を投げかける。
「さっきとは、あの話でしょうか……」
シュテフィが思い出すのは、さっきエミリにブーケを渡した時の会話。あの時彼女がエミリに向けて言ったのは、『エミリを愛する人が、案外すぐ傍にいるかもしれない』という言葉だ。
「はい。その言葉ですけど……それって、もしかして……」
ハンジはチラリとエミリに付いているリヴァイに視線を移す。そんなハンジの動作に、正解とでも言うようにシュテフィはクスリと微笑んだ。
「ふふ……私、結構人を見る目はあるんですよ? 色々な方と交流をしていく内に身についたちょっとした特技です」
そんなシュテフィから見たエミリとリヴァイ。
あの二人は、少しずつ……ほんの少しずつだけれど、惹かれ合っている。恋愛とは違った敬愛という、細く強い糸で──
「でも、どうしてそんな事を……?」
「そうですね、きっかけは……先程のリヴァイさんを見たからでしょうか……」
「先程?」
「……はい。エミリさんが、橋から飛び降りた後のことなのですが──」