Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
「そして、式を挙げると決めた時からずっと考えていたんです。ブーケは、エミリさんに渡そうと」
「……私に?」
「はい。誰かのために一生懸命になれる貴女に……このブーケを贈りたいんです。貴女にも『幸福な愛』が届きますように。その願いを込めて」
そうしてもう一度、エミリへブルースターのブーケを差し出す。
今度は、戸惑うことは無かった。エミリは笑顔でブーケを受け取る。
「ありがとうございます」
「きっと、貴女にも見つかります。貴女を愛してくれる人が……でも、案外すぐ傍にいるかもしれませんね」
「え」
シュテフィの言葉の意味がよく理解出来なくて、エミリは不思議そうに彼女を見上げる。
すぐ傍に……それは一体誰なのだろうか。
(フィデリオ……? いや、ないない…それはない! オルオはペトラのこと好きみたいだし、絶対違う……ホントに誰?)
一人で悶々としていると、エーベルがエミリを呼び掛ける。
こっちへおいでと手を振る彼の元へ行こうと松葉杖を持って席を立った。けれど、初めて使うそれを上手く使えず、フラフラしながら歩いて行く姿は見ていて危なっかしい。
「チッ……」
リヴァイは席を立ち、エミリの隣まで歩くと彼女の腕を掴んだ。
「勝手に一人でどっか行くんじゃねぇ。また怪我を増やすつもりか」
「……兵長……」
「ほら、あいつの所に行くんだろう」
「あ、はい……!」
リヴァイに支えてもらいながら、何とかエーベルの元へ辿り着く。
結局、リヴァイには面倒掛けてばかりだ。何度礼を言っても足りないほど、彼には世話になっている。いつかちゃんとお礼をしたい。
「エーベル、どうしたの?」
「……シュテフィから聞いた。ベーゼ家の者にされた事や君があの橋から飛び降りた事も……全く、とんでも無い無茶をするね」
困ったように微笑むエーベルだが、話を聞いた時はとても心配していたのだろう。彼はそういう人だから。
「まあ、君らしいけどね。シュテフィや婚約指輪の事も……本当にありがとう、エミリ」
「うん」
エーベルは幸せそうに笑った。彼がこれからも、シュテフィと共にこうして笑っていられるのなら、それでいい。
……貴方が幸せだと、私も幸せだと思えるから。