Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
そんなエミリとリヴァイのやり取りにクスリと微笑んだシュテフィは、自分が手に持っているブーケをエミリに差し出した。
「……え」
勿論、いきなりそんな事をされたエミリは戸惑う。
訳が分からずシュテフィを見上げると、彼女は優しい笑みを浮かべて口を開いた。
「エミリさん、この花はご存知ですか?」
「あ、はい……"ブルースター"ですよね?」
ブルースターは、その名の通り爽やかで涼し気な印象を与える青色の花。花嫁が青いものを身に着けると幸せになるというジンクスとよく合っている。
エミリの回答に、シュテフィは「当たりです」と満足そうに首を縦に振った。
「では、花言葉は?」
「えっと、確か……『幸福な愛』と『信じあう心』でしたよね?」
「ふふ、それも当たりです。詳しいのですね」
楽しそうに、けれど上品に微笑むシュテフィが綺麗で、眩しくて、エミリは少し頬を紅く染める。
「私……貴女には本当に感謝しているんです。エーベルさんとこうして両思いになれたのも、結婚式を挙げることが出来たのも……エミリさんのお陰ですから」
他の客人と話をしているエーベルを見つめながら、エミリに語りかけるシュテフィの瞳や言葉には、彼への想いが込められていた。
「……ただ、後から気づいた事だとはいえ……エミリさんには申し訳無い気持ちもありました」
「え」
「エミリさん、貴女も……エーベルさんに想いを寄せていたのですよね」
「!!」
シュテフィの言葉に、エミリはビクリと肩を揺らす。まさか彼女にバレているとは思っていなかったから。
「……それ、いつ……」
「初めてお会いした時に、なんとなく……」
「そう、ですか……」
「貴女は、自分の気持ちを押し込めてまで、私とあの人を繋げてくれた。婚約指輪も、命懸けで取りに行ってくれました……本当に感謝しています」
ふわりと優雅に頭を下げるシュテフィ。
彼女の落ち着いた動作は、きっと自分には一生真似できないだろう。