Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
「わぁ……!!」
時間となり、式場の客席でシュテフィの姿を見たエミリは、宝石のように目を輝かせた。
ふんわりと広がる純白のドレスとベールは、シュテフィの美しさを更に引き立てている。彼女の姿はまるで、昔読んだ絵本に出てくるお姫様のように綺麗だった。
「シュテフィさん、綺麗……」
「そうだねぇ」
胸の前で両手をギュッと握り、うっとりとした眼差しで満面の笑みを浮かべるシュテフィを目に映す。
そんなエミリの言葉に、ハンジは彼女の頭を撫でながらシュテフィを眺めていた。
(…………憧れるなぁ)
もし自分が兵士では無かったら、普通に恋をして、こんな風に素敵な結婚式を挙げたのだろうか。
時々、ほんの少しだけ……そんな事を考えてしまう時がある。
自分の選んだ道に後悔は無い。
けれど、それでも恋や結婚式は……エミリにとっても憧れだ。
笑顔で式へ招待した人々と会話を楽しむシュテフィを見つめながら、エミリは少し寂しそうに微笑んだ。
すると、ふと視線をエミリへ向けたシュテフィと目が合う。
シュテフィは一言、喋っていた人に声を掛けて、慌ててエミリの方へ駆け寄って来た。
「エミリさん……!」
彼女の顔には、安堵と喜び……そして、申し訳無さが入り交じった表情をしていた。両手でブーケを持ちながら躓かないように、けれど出来るだけ駆け足でエミリの元へ歩く。
「……良かった……貴女が飛び降りた時、本当に驚いて…ずっと心配だったんです……すみません。私のせいで…あんな無茶をさせてしまいました……」
「ちょっ……シュテフィさん!」
目の淵に涙を浮かべ、頭を下げるシュテフィに慌てて顔を上げるように声を掛ける。そして、ポケットからハンカチを取り出し、今にも流れそうな彼女の涙をそっと拭った。このまま流れてしまっては、せっかくのお化粧が台無しになってしまう。
「あの、気になさらないで下さい。飛び降りたのは、私がそうしたかっただけというか……」
眉を下げるシュテフィにフォローを入れると、隣に座るリヴァイが横から口を挟む。
「こいつが勝手に馬鹿やっただけだ。お前が気にすることじゃねぇ」
「うっ……」
自覚している事とはいえ、こうしてストレートに言われるとなかなか心にグサリとくるものだ。