Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
「ふふっ……」
「え、ハンジさん……?」
エミリがドレスに着替える後ろで、突然怪しい笑みを零すハンジにエミリは口元を引き攣らせる。どうせまた、可笑しな事を考えているのだろう。サラリと流してサンダルに足を入れる。
「エミリ、髪を解いてあげるよ」
「あ、ありがとうございます」
ブラシを持ったハンジは、エミリの後ろに回り丁寧に髪を解いていく。
髪も大分伸びたものだ。訓練兵団へ入った時は肩より少し下辺りだったのが、いつの間にか背中辺りまで長くなっていた。
「……なんか、懐かしいです」
「ん?」
「こうして、誰かに髪を解いてもらうの……久し振りで」
母であるカルラが生きていた頃は、いつも髪を解いてもらっていた。それはエミリなりの甘えでもあり、また、そんな親子の時間が温かくて、大好きだった。
髪を切らずに伸ばしているのも、カルラの影響だった。彼女のような、長く綺麗な髪に憧れていたから。
「私で良ければ、髪くらいいつでも解くよ!」
「へへ、ありがとうございます」
「できた!」と言ってポンポンとエミリの頭を撫でるハンジに、照れたように微笑む。
仕上げに白色のリボンを頭につけて準備万端。
ハンジから松葉杖を受け取ったエミリは、外で待つリヴァイの元へ向かった。
「おせぇ……」
「仕方ないだろう。女の子は身支度に時間が掛かるものなんだよ!」
「あはは……」
繋いだ馬の近くで待っていたリヴァイの元へ行けば、不機嫌な顔で壁に背を預けて立っていた。
「お待たせしてすみません」
「式場に戻るぞ」
そう言って、エミリの持つ松葉杖をハンジに預け、リヴァイはエミリを抱え馬に乗せる。自身も馬に跨り、ハンジを見下ろした。
「お前は杖を運べ」
「はいはい、ホントにリヴァイってばエミリに甘いよね〜」
「あ?」
ハンジの発言に睨みを効かせるリヴァイだが、ハンジはそれをスルーして自分が乗ってきた馬へ跨る。そして、エルヴィン達のいる式場へ再び馬を走らせた。