Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
包帯を巻く手を動かしながら、チラリとエミリを盗み見る。
目を瞑り、耳まで赤く染め上げ羞恥に耐える彼女の姿に、少し心が揺れ動いた。
(…………こいつ、こんな表情もするのか)
無意識にそんな事を思ってしまった。
それは、手当という形であれ、男に体を触れられているという恥ずかしさから見せるオンナの顔。
恋やドレス、女の子らしいことをして楽しそうに顔を紅く染めることはあっても、今回のような事は初めてなのか、その表情には戸惑いも含まれていた。
「エミリ、終わったぞ」
「……あ、はい。ありがとうございます……!」
目を合わせないように、顔を逸らしながら礼を言うエミリの顔はやはり赤い。
「おい、こっちを向け。まだ顔の手当が終わってねぇだろう」
「そ、そうでしたね!!」
ギュッと目を瞑り、恐る恐る顔をリヴァイの方へ向き直す。
リヴァイがその頬にそっと触れると、エミリはビクリと肩を揺らした。
「そんなにビクビクするな」
「は、い……」
リヴァイはそう言うが、逆に落ち着けと言われる方が無理だ。
顔の手当のため、リヴァイの顔が自分のすぐ眼の前にある。鼻と鼻が少しくっつきそうだ。
リヴァイの手から伝わる体温と、彼からほんのりと漂う紅茶の香りに、更に心臓は早鐘を打つ。
「ったく、こんな所にまで傷作りやがって。跡が残ったらどうすんだ」
絆創膏を貼り、その上をリヴァイの指が優しく撫でる。
そんな彼の行動に、エミリはもう湯気が出るのではないかという程に、頬が熱くなっていた。
「気分はどうだ?」
「あ、えっと……問題ありません……!」
「そうか」
そうして今度は、優しくエミリの頭を撫でる。それをされる事で、酷く心が落ち着いた。
そういえば、リヴァイはよくエミリの頭を撫でることが多い。癖なのだろうか。
頭の隅でそんな事を思いながら、暫くその手に身を委ねていた。