Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
エミリを前に乗せ、式場へ戻るために馬を走らせる。リヴァイはエミリを落とさないように強く、けれど優しく腹に腕を回す。
壁外調査から帰還した時よりも悲惨な姿。馬に揺られる振動で傷に響いているのか、時々辛そうに声を漏らしていた。
「もうすぐだ。我慢しろ」
「はい」
そう言っている間に、小さな屋敷の前でエミリとリヴァイを待っていたエルヴィン達の姿が見える。馬の速度を落とし、彼らの前で止まるとハンジが険しい表情で駆け寄る。
「エミリ! 大丈夫?!」
「はい。一応……」
「そう言う割にはかなり酷い格好だぞ」
苦笑を浮べ答えるエミリだが、彼女の言葉とは正反対の痛々しい姿にハンジは言葉が出なかった。
ミケも心配そうにエミリを見上げている。
「シュテフィさんの従者から話は聞いている。リヴァイはそのままエミリを連れて、病院へ行ってくれ」
「ああ、そのつもりだ。エルヴィン、こいつをあの女に渡しておいてくれ」
リヴァイはシュテフィの婚約指輪をエルヴィンに手渡す。指輪を受け取ったエルヴィンは、そのままハンジに向き直り次の指示を仰いだ。
「ハンジ、二人が病院で診察を受けている間に、エミリの新しいドレスと靴を用意しておいてほしい」
「え、ドレスって……まさか、診察を受けた後、パーティに出席させるの!?」
「私もエミリには休んでいて欲しいが、彼女が言うことを聞くと思うか?」
そう言って、全員がエミリへ注目する。
エミリは申し訳なさそうに目を逸らしながら「我儘を言ってすみません……」と、弱々しく謝った。
「……はぁ、わかったよ。その代わり、兵舎に戻ったら暫く大人しくしておいてもらうからね」
「その様子だと、暫く訓練も無理だろうからな。ゆっくり休め」
「はい……」
ハンジとミケの気遣いに、エミリはまたもや泣きそうになる。最近、涙腺が緩くなってきている気がした。
「では、後は任せた」
「あ、エルヴィン団長! すみません。ドレス、折角買って頂いたのに……靴や髪飾りも……」
しょんぼりと眉を下げるエミリに、エルヴィンは優しく頭を撫でる。
「君が無事で良かった」
彼の言葉に、エミリは涙目小さく頷いた。