Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
ケニーと別れたエミリは、右足を引き摺りながら式場へ向けて歩いて行く。けれど、全く辿り着く気がしない。このままでは、着いた頃には日も暮れているだろう。
「……うっ……」
無理をしているからか、さっきよりも痛みが増してきた。
休憩も兼ねてその場へしゃがみ込む。
「はぁ、はぁ……」
激痛で顔に汗が流れる。それに伴い腕や足、顔に出来た切り傷からも痛みがエミリの身体を刺激する。体力も限界が近づいて来た。
「……いそがなきゃ」
それでも式場へ向かうために立ち上がろうとする。
エーベルとシュテフィが待っているのだ。こんな所でへばっている場合ではない。
全身に力を入れ、腰を上げようとする。
けれど体は動かない。
「なん、で……うごかないの……」
汗が頬を伝ってポタポタと地面を濡らす。
滲んで色の変わった地面を見ながら、地についた手をギュッと握り締めた。
一つ、深呼吸をしたエミリは、もう一度立ち上がろうと身体に力を込めた。
「エミリ!!」
その時、馬の足音と共に聞こえた自分の名を呼ぶ声。
ゆっくりと顔を上げると、リヴァイが馬を走らせエミリの元へ駆けつける。
「へ、ちょう……」
リヴァイの姿を捉えたエミリは掠れた声を発し、そして、安堵した。
自分の元へ駆けつけてくれたことが、嬉しかった。
エミリの傍へ辿り着いたリヴァイは、彼女の姿を見て顔を顰める。
ビリビリに破れたドレス、綺麗な白い肌にできた無数の切り傷と腫れ上がった右足首は、見るに堪えないものだ。
馬から降り、エミリの前へ膝をつく。
そして、エミリの肩を抱き自分の胸へと引き寄せた。
「……兵長……?」
「バカが。無茶しやがって……」
エミリは戸惑いながらも、リヴァイの温かい体温を感じずにはいられなかった。
こうして抱き寄せられたのはこれで二度目だ。
一度目は失恋した夜。泣くのを我慢していたエミリを抱き締め、ずっと寄り添ってくれた。
また、心配を掛けてしまった。
罪悪感に苛まれる。
けれど、同時に安心もした。
「……兵長、心配掛けてすみませんでした」
「全くだ。もう、こんな真似すんじゃねぇ」
「……はい……」
リヴァイの優しさに、涙が一粒零れ落ちた。