Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
エミリを背負ったケニーは、森を抜けて上へと続く坂道を登って行く。
驚くことにケニーという男は、体力も筋力もプロの兵士並……いや、それ以上だということがわかる。服の上から鍛え上げられた筋肉の質量が伝わる。
その証拠に、ずっと同じスピードで走っているにも関わらず、坂を登っていても疲れた様子は一切見せない。
「……ケニーさんって兵士なんですか?」
「あ? いきなり何だ?」
「いえ、おじさんの割には凄い体力と筋力だなぁ……と。だから、兵士でもやっているのかと思いまして」
「……まぁ、そんなとこだ」
ならば、憲兵か駐屯兵の所属だろう。調査兵団にケニーという名の兵士はいないし、彼を見たのも今回が初めてだ。
「そういうお前こそ、兵士なんだろう?」
「へ?」
「あんなとこから飛び降りて来るやつなんざ、相当身体能力に自信のある奴か、ただのバカか、兵士くれぇだろ」
「……確かに、そうですね」
ケニーの最もな考えに、エミリは苦笑を浮かべる。そして、自分は兵士だけでなく、バカもカテゴリーに入っていることはまず間違い無い。
あの時はただ、ベーゼ家の男のやったことが許せなくて、何も出来なかった自分が情けなくて、感情に任せて飛び降りてしまった。
たまに後先考えずに飛び出してしまう所は、いつになったら改善されるのだろうか。
「エミリよ、お前……調査兵団所属だろう」
「え、何でわかったんですか!?」
「人類のためにと心臓を捧げるような奴らだ。変人の集まりとかでも有名だしなぁ。お前の行動見てると、そんな気がしてならねぇよ」
「…………」
遠回しにエミリを変人扱いしている発言だ。普通の人間なら否定するだろうが、心当たりがありまくるため、エミリは無言を貫く。
「オイオイ、そこは否定しろよ」
「いえ、あながち間違ってません……」
「冗談はよしてくれよ。お前みてぇな可愛い嬢ちゃんが変人だなんて、俺は信じたくねぇぞ」
ケニーはそう言うが、冗談ではない。特に、弟のエレンに対する溺愛っぷりは、他の追随を許さないと自負できるほど自信がある。
そういえば、調査兵団に入ってからは、エレン絡みで暴走した事がない。そんなエミリを見れば、ペトラ達はどう思うだろうかと溜息を吐いた。