Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
「ふむ、返して上げてもいいだろう。但し、君が私に頭を下げるんだ」
「……は?」
何を言っているんだコイツは。
信じられない言葉に思考がおかしくなそうだ。
彼が頭を下げて謝罪するよう命令したのはエミリだった。
「おい、エミリは関係ねぇだろうが。てめぇの都合に巻き込むんじゃねぇ」
彼の先ほどの発言に呆れて話す気力が失せていたリヴァイも口を挟む。
リヴァイの目はいつも以上に鋭さを増し、男を睨みつけていた。しかし、それすらも彼は軽く遇う。
「本当はシュテフィさんに、このままホフマン家の者との婚約を破棄して貰おうと思ったが……彼女の様子を見る限りそれもムリだし、だから代わりに、エミリさんだっけ? 私に誠意を込めた謝罪をしろと言っているんだ」
「ちょっと待って! 何で私が貴方に頭を下げなきゃ駄目なのよ!!」
「言葉遣いがなってないんだよ。年上、しかも貴族の者相手にそんな乱暴な言葉を使う女性は君が初めてだね」
指輪をチラつかせ、鼻で笑う彼にエミリは再び怒鳴りたくなる気持ちを必死に抑える。
そして、深呼吸をしたエミリは、深く頭を下げた。
「すみませんでした」
「エミリさん!!」
本当に彼の言う通りに頭を下げ謝罪を口にしたエミリに、シュテフィは泣きそう顔で近寄ろうとするも、従者に止められる。
納得はしていないが、これでシュテフィの婚約指輪が返ってくるのなら安いものだ。
今は、彼女達の結婚式の方が大事だ。
つまらない意地を張って、予定を遅らせる訳にはいかない。
「……はぁ、面白くない」
「え」
つまらなさそうに、溜息と共に吐き出された言葉にエミリは顔を上げる。それと同時に目に入った光景に目を疑った。
キラリと小さく光る指輪が彼の指から離れ中を舞い、橋の下へ落とされる。そこには、たくさんの木々たち。
指輪は森の中へ姿を消してしまった。
「そんな……」
シュテフィはその場にヘタリと座り込む。
彼女の頬には大粒の涙が流れていた。
「……なんで……わたし、貴方の言う通り……」
「ええ、頭を下げ謝罪もちゃんと口にした」
「なら!」
「だが、私は言ったはずだ。『誠意を込めた謝罪をしろ』とね」
嫌味ったらしい笑顔。
エミリは頭の中が真っ白になった。