Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
「エミリ! どこ行くの!?」
「シュテフィさんを探して来ます!!」
慌てた様子で問い掛けるハンジへ返事をしたエミリは、そのまま元来た道を戻って行った。
とにかくシュテフィのことが心配だった。
彼女がとれほどエーベルのことを想っているか、見ているだけでその強さがひしひしと伝わった。
結婚式だって、楽しみにしていただろう。
大切な人と永遠を誓い合う、一生に一度の幸せな出来事。彼女が遅刻をするなど考えられないが、そうなってしまった理由があるはずだ。
エミリは走った。
街を抜けると小さな林に差し掛かる。そこを抜ければ、大きな橋があるはずだ。
馬車で通った道を思い出しながら、慣れないヒールで林の中を駆ける。
「……あれは!?」
もうすぐ林を抜けるという所で目に入るのは、橋の上で停車している数台の馬車。
事故でもあったのだろうか。エミリは足を早めた。
近づくにつれて、馬車とその周りにいる者達の姿がはっきりとしてくる。
まるで行先を防ぐかのように停車する馬車の向こうには、シュテフィや彼女の従者たちが険しい表情をして立っていた。
「シュテフィさん!!」
「……エミリさん?」
エミリの姿を目に映したシュテフィは、驚いたように目を丸くする。
「どうして……」
「エーベルから、まだ式場に到着してないって……心配だったので」
「……そう、だったんですか」
「シュテフィさん、何があったんですか?」
胸の前でギュッと両手を握り、顔を俯かせるシュテフィの様子からただ事ではないと察した。
おそらく原因は、式場に向かおうと走らせていたシュテフィたちの馬車を止めている者。いま、彼女らの進路を防いでいる、金の装飾があしらわれた馬車の中に入っている人物だろう。
「おやおや、変な虫が一人増えた」
その馬車の中から低い男性の声が聞こえる。
御者が扉を開け、中から燕尾服に似たジャケットを羽織った男性が姿を現した。