Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
馬車の中で弄り倒されたエミリは、式場に着いた頃にはクタクタだった。溜息を吐く。
そしてリヴァイの機嫌もあまり良いものでは無かった。
馬車の中でエルヴィン達の餌食なっていたのはエミリだけではない。リヴァイは、特にハンジからいじられまくっていた。
泣く子も黙る人類最強の兵士でも、エルヴィンやハンジには頭が上がらない部分もあるようだ。
「これから式に出席するというのに、酷い顔だな。リヴァイ」
「……誰のせいだと思ってる……」
エルヴィンの言葉にリヴァイは更に顔を顰める。
これは式に出席した方が機嫌が悪くなるかもしれない。リヴァイは騒々しいものを好まない。
またもやハンジに絡まれるリヴァイに同情し、苦笑を浮かべる。
「エミリ!!」
その時、焦りを含んだ聞き慣れた声が外へ響き渡る。
名前を呼ばれたエミリはリヴァイ達から視線を外し、声の発生源を目で探す。
すると、バルコニーから白いタキシードを身に包んだエーベルが、エミリ達の元へ駆け寄る姿が目に入った。そこで異変を感じる。
「エーベル?」
エミリ達の前で立ち止まり、膝に手をつけゼーハーと肩で呼吸を繰り返す。そんな彼には、いつもの落ち着いた雰囲気など無くて、エミリの心に不安が覆った。
「どうしたの? そんなに慌てて……何かあったの?」
恐る恐る、問いかける。
「……はぁ……エミリ、ここに来る、途中……シュテフィを見なかった?」
「……ううん?」
「そう、か……」
苦しそうに呼吸を整え、発したエーベルの言葉から何となく予想はついた。シュテフィがまだ、会場に到着していないのだということを……。
「……シュテフィさん、まだ来てないの?」
「ああ……集合時間は二時間前に過ぎている。流石に可笑しいと思って……使用人達にも頼んで、式場の周辺も探してみたんだけど……」
見つからない。
不安と辛苦が混ざった表情のエーベルに、エミリは酷く心が傷んだ。
シュテフィのことがとても大切なのだろう。
何故、シュテフィはまだ来ていないのか。
もしかしたら何かあったのかもしれない。
そう考えたエミリは方向転換して走り出す。