Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
二週間後。兵舎の部屋の中で、エミリの姿にペトラは頬を紅潮させた。
「うん! エミリ、似合ってる!! すごく可愛い!」
「そ、そうかな……」
エミリはエルヴィンに選んで貰ったドレスを身に纏い、恥ずかしそうに顔を俯ける。
いつも一つにまとめている髪も今日は下ろし、片方に髪飾りをつけ、顔には薄めに化粧を施し、大人っぽく魅せた。
いつもの自分からは想像もできない姿に、エミリは心が踊った。
「ペトラ、ありがとう!!」
「いえいえ」
髪と化粧、どちらもペトラがやったものだ。
お洒落にあまり関心が無かったエミリにとっては、最高の助っ人と言っても良い。
帰ったらお礼に何か奢ろうと決めた。
「そろそろ時間よね?」
「うん! じゃあ、行ってくる!!」
「気をつけてね!」
鞄を持ったエミリはペトラと別れ、足早に門へ向かう。
こんなにもお洒落をしたのは今回が初めてだ。
思わずスキップしそうになるがそれを我慢し、代わりに鼻歌を歌いながら歩く。
門には既にホフマン家の馬車が停車していた。
馬車の前では、燕尾服を着用したハンジがエミリに大きく手を振っていた。
「いや〜、見違えたねぇ!! ちょっとみんな〜! エミリすっごく可愛いよ!!」
「ちょっ……ハンジさん!!」
既に馬車に乗車していたエルヴィン達に、エミリのドレス姿を褒め称えるハンジ。エミリは顔を真っ赤にさせてハンジの腕を掴むも、本人はそんなエミリの反応を楽しんでいるため逆効果だ。
ハンジと共に馬車に乗れば、同じようにエルヴィンとミケが『似合っている』と口を揃えて言う始末。
(もう、恥ずかしくて顔上げれない……)
「でも、結局ドレスの色はオレンジにしたんだねぇ……」
「…………なんだクソメガネ」
ハンジの嫌な視線を感じたリヴァイは、眉間に皺を寄せ彼女を睨みつける。それでもハンジはニヤニヤを止めない。
「良かったね〜オレンジが採用されてさっ!」
「チッ……」
「そんな顔をするな。色はリヴァイが推していたという話をした時は、エミリも喜んでいた」
「……団長、もうやめて下さい」
「てめぇ……余計なこと言いやがって……」
エルヴィンの言葉に二人は嘆くしか無かった。