Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
「──というわけだ」
「いやいや! 何が『というわけだ』ですか!! なんつー話してるんですか!!」
まさか自分に似合うドレスの話をされているとは思わず、エミリは顔を真っ赤に染めながらツッコミを入れる。
「まあ、とにかくだ……ドレスの色を推したのはリヴァイなんだよ。バラしたことを本人に言えば怒られるだろうがな」
楽しそうに微笑むエルヴィンを見て思う。
『この人絶対面白がっているな』と。
鏡に映る自分の姿を見るが、顔や髪型がドレスに負けている気がする。
「髪や化粧は、当日、君の友人にでもしてもらえばいいんじゃないか?」
「……心の中読まないで下さい」
こんな所でも鋭いエルヴィンの洞察力に、エミリは目を逸らす。
(……でも、良い機会かも)
普段、こんな格好をすることは無いし、兵士として生きていく以上、女の子らしくすることも限られてくるだろう。
こういう時くらい、お洒落を楽しんでみよう。そう思った。
「じゃあ……このドレスにします!」
「他のドレスは試着しなくてもいいのか?」
「はい!これがいいです!!」
リヴァイが選んでくれた色。
エルヴィンが選んでくれたドレス。
それだけで、十分だ。
「あとは、靴と鞄と髪飾りだな」
店員にドレスを預け、別の物を買いに店内を回る。
こんな贅沢な買い物ができるのも、おそらく今回限り。
こうなったら存分に買い物を楽しむと決めた。
必要な物を揃え、二人は兵舎へと帰る。
靴はカーディガンと同じ色の、踵の低いシンプルなデザインの物にした。鞄は薄いピンク色の小さな物。髪飾りは白色のシンビジウムの花を模した物に決めた。
「エルヴィン団長、今日は本当にありがとうございました」
「いや、私も楽しかったよ。またどこかへ連れて行ってあげようか」
「なんか……それ、お父さんが言うような台詞ですよ」
幼い子供と手を繋ぎ、またどこか遊びに行こうかと話しかける親子を想像する。
「はは、そう聞こえても無理もないだろう。君といると、なぜだか父親になったような錯覚に陥る」
「……え、色々とおかしいですよね?それ」
冗談だと思いたいが、この人が冗談を言う姿など想像できない。多分、本当なのだろう。
エミリは何と返事をすれば良いか分からなかった。