Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
「……でも、小さい頃なんて、近所の子達から暴力女なんて言われていたくらいなんですよ?」
「そうなのか? まあ、君のことだ。誰かの為に暴れ回っていたんだろう?」
「それは……そう、ですけど……」
エミリの弟であるエレンも、姉同様なかなか友達が出来ずにいた。そんな弟と仲の良い友達であるアルミンも、近所に住むいじめっ子のグループから、パンを取られたり、殴られたりと理不尽ないじめを受けていた。
もちろん、エレンはそんな奴らを見逃したりはしない。頭に血が登り、すぐにいじめっ子たちに掴みかかっていた。
三人を相手に無闇矢鱈と突進しては、自分がいつも返り討ちにあっている。それでも諦めたりせず、殴られても何度も突っかかっていく。
そんな弟とアルミンのためにと、エミリもそのいじめっ子たちに何発ビンタをお見舞いしてやっただろう。
何時間、エレンといじめっ子たちに説教をしてやっただろう。
(……それからだったなぁ……暴力女って言われるようになったの)
いつの間にやらいじめっ子たちは、エミリの姿を見ると『エ、エレンの姉ちゃんだ……! 逃げろおおお!!』と言って逃げるのがお決まりとなっていた。
完全にエミリは彼らの恐怖の対象となっていた。
ある意味、これはエミリの黒歴史の一つでもある。
「……団長、やっぱり私に女らしさなんて求めちゃダメな気がします」
昔の自分の行いを改めて思い返してみるととんでもない。
エミリは口元を引き攣らせる。
「そんなに謙遜しなくても、エミリは十分女の子らしいさ」
「……う〜ん」
「実は、これはリヴァイが言っていたことなんだが……」
「え」
突然出てきたリヴァイの名前に、項垂れていた顔を上げる。
「昨日、君が団長室から出て行った後の話なんだが……」