Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第9章 幸福
次の日。午後の訓練を終え、私服へ着替えたエミリは荷物を持って兵舎の門へ急ぐ。
昨日、団長室でエルヴィンと約束した通り、二人でパーティー用のドレスを買いに行くためだ。
「お待たせしました!」
既に私服姿で待っていたエルヴィンの元へ駆け寄り、肩で息を整える。
「そんなに慌てなくても大丈夫だ。さあ、日が暮れる前に、買い物を済ませてしまおうか」
「はい!」
この時間帯は夕飯の買い物で外出している人が多いが、二人が向かっているのはパーティー用の衣装屋だ。自然と向かう所も、それなりに金持ちの者達が訪れるような場所となる。人通りも少なく市場ほど賑わってはいない。
「この店にするか」
店の扉を開け中へ入るエルヴィンに続く。
店内には様々な色のドレスが並んでおり、それに合わせた靴やバッグ、髪飾りもあった。
エミリはそんな素敵な衣装に釘付けになる。
「好きなものを選ぶといい」
「で、でも……私、ドレスなんて初めてで、どれを選べばいいか……」
「そうだな……なら、これなんてどうだ?」
店内のドレスをぐるりと見回しエルヴィンが手に取ったのは、鮮やかな橙色のドレスだった。スカートが膝下までのそれは決して派手すぎず、かといって地味なわけでもなく、更にセットとなっているアイボリーのカーディガンが、落ち着きのある雰囲気へと仕立て上げている。
「わぁ……綺麗ですね!」
「一度、試着してみたらどうだ?」
「そうします!」
嬉しそうに頬を染めて微笑むエミリは、純粋に買い物を楽しむ年頃の女の子で、エルヴィンは思わずエミリの頭を撫でる。
娘がいるとこんな感じなのかもしれないと、一人心の中で冗談を飛ばしながら、エミリが着替え終えるのを待っていた。
「だ、団長! どうでしょうか……?」
女性店員に連れられ戻って来たエミリは、恥ずかしそうに顔を赤くして少し顔を俯かせている。
「ああ、よく似合っているよ」
「ホントですか!? 私がドレス着ても、違和感とか無いですか?」
「君はもう少し、自分に自信を持ってもいいんじゃないか?」
落ち着きが無いから、女の子らしく無いからなど、エミリはよく自分のことを卑下するところがある。それはエルヴィンも前から知っていた。