Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第8章 涙
「エミリ」
「……うっ……は、い…………!?」
リヴァイに名を呼ばれ、エミリは涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げる。途端、体が強い力に引っぱられ傾いた。
「…………兵長?」
驚いてピタリと涙が止まる。
何が起こったのか分からなかったから。
(なんで、わたし…………兵長に抱き締められてるの……?)
ドクドクと鼓動を刻む音がエミリの耳に響く。それはリヴァイの心臓の音だ。
頭と背中には手が置かれ、優しく……けれど強く捉えて離さない。
「へいちょ……」
「泣きたきゃ泣け……落ち着くまで、こうしてやる」
穏やかな声。
温かい体温。
優しい言葉。
驚きで止まっていた涙が再び溢れ出す。
「……う、うぅ……」
泣きすぎて、頭痛が襲う。
そんなエミリの頭をリヴァイは優しく、あやす様に撫でていた。
エミリの話を聞いている間、何度もこうしたくなった。
らしく無いのは分かっている。
自分でも信じられない程の優しい声色に戸惑った。
いつものリヴァイならこんな事はしない。なのに、どうやらエミリといると調子を乱さられるらしい。
「……へい、ちょう」
「なんだ」
「いまは、辛いけど……わたし、また誰かを好きに……なれる、でしょうか」
肩を震わせ、か細い声で話すエミリ。
一度は、想いが繋がって……それでも共にいることは叶わなかった。
二度目は、想いが伝わることなく断ち切られた。
なら、三度目は……
少し怖かった。
また次も、その人がいなくなってしまったら。
想いが実ることが無かったら。
エミリは調査兵。
もしかしたら、今度は自分が置いていく側になるかもしれない。
それを考えると、恋などもう……しない方が良いのではないかと思ってしまう。
それでも、『恋を諦めないで』とファウストに言われたから。
それが彼の最後の望みだから……
「ああ、なれる……そして、お前を一番、大切に想うやつも見つかる。だから、そいつが言ったように、諦めるな」
「……はい……」
それは、ただの励ましの言葉ではない。リヴァイの勘がそう言っていた。
勿論、根拠も何も無い。だけど、人の幸せを願うことのできる彼女になら、きっと、いつか……素敵な人ができるだろう。
そう、確信した。