Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第8章 涙
「…………すみません。こんなに泣くとは思ってなくて……」
ズキズキと痛む頭を片手で押さえながら、もう片方の手で涙を拭う。
きっと目元は腫れ、酷い有様だろうと自分の顔を想像する。
本当なら、ベッドの中でひっそりと涙を流すつもりが、結局、リヴァイに迷惑を掛けてしまった。その上、彼の服もエミリの涙で濡れている。
「服も、すみません……汚してしまって」
涙で色の変わった部分に視線を留め、さっきよりかはしっかりとした声で謝罪の言葉を口にする。
「……何故謝る。別に汚くなんかねぇだろ」
「え」
リヴァイの言葉にエミリは驚いて顔を上げた。それと同時に、リヴァイがエミリの目元に触れ、そっと親指で撫でる。
壊れ物を扱うかのように、優しく……
「……兵長?」
リヴァイの行動が読めず、エミリは戸惑う。
今日のリヴァイは、どうしてこんなにも優しいのだろう。
普段の彼も確かに優しい。が、いつもと違う。
「もう、大丈夫そうだな」
優しい優しいリヴァイの声が、言葉が、エミリの心にスッと溶け込んでいく。
まるで、さっき食べたバウムクーヘンのシュガーのように甘くて、エミリの心の傷を癒していく。
「そろそろ部屋に戻るか。風邪を引く」
「あ、はい……!」
宿の中へ歩いて行くリヴァイを慌てて追う。
そこで、自分の身体が軽いことに気づいた。
心も、足取りも、何もかも重くて怠さすら感じていたさっきが嘘のように、いまはとても軽い。
(兵長のおかげだ……)
胸の内に秘めていた想いを全てリヴァイに話したことで、心がスッキリしたのだろう。
思えば、いつもリヴァイに助けられてばかりだ。
二年前の"あの日"から、ずっと……
「兵長!」
伝えなくては
「なんだ?」
リヴァイへの感謝の気持ちを
「……リヴァイ兵長、いつも私のことを助けて下さり……ありがとうございます!」
心からの笑顔で
「ああ」
満面の笑みで感謝の言葉を口にするエミリの頭に手を置き、優しく撫でる。
エミリといると、リヴァイも何故か穏やかな気持ちなれた。
……コイツを、守ってやりたい。
そう思えるほど、リヴァイの中でエミリの存在は、"特別"になりつつあった。