Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第8章 涙
「……兄さんは、息を引き取る直前まで私のことを想ってくれた……私の幸せを願ってくれた……だから、今日、失恋しちゃったけど……また、誰かを、好きになれたらって……」
そこで、エミリの頬に一筋の涙がこぼれ落ちた。
それを合図にするかのように、どんどん涙が溢れ出し、そして、声を上げて泣いた。
本当は、もっと生きていて欲しかった。
生きて、もっと幸せになってほしかった。
そして、ずっと『笑顔』でいてほしかった。
別に、恋が実らなくても良い。
ファウストが隣にいてくれるなら、そうでなくても、笑っていてくれるならそれで良いと……何度思ったことだろう。
まだ小さな子供で、ただ見ていることしかできなかった無力な自分。
そんな自分が大嫌いだった。
悔しくて、悔しくて……仕方が無かった。
「でも……そん、なとき……エーベルが言って、くれたんです……」
ファウストを失った悲しみで元気が無かった時、エーベルがエミリに言った。
『君は無力なんかじゃないよ。だって、その子は最期、笑っていたんだろう? なら、彼を笑顔にしたのはエミリだよ。
君のことが"好き"っていう感情が、彼を幸せにした。
エミリが生まれてこなければ、彼はもしかしたらそんな幸せな最期を迎えられなかったかもしれないよ』
エーベルのその言葉にエミリは救われた。
ファウストがいなくなってから初めて、笑うことができた。
その時から、エミリにとってエーベルの存在は大きなものとなった。
「……だか、ら……エーベルが私に、笑顔をくれた、ように……エーベルとシュテフィさん、にも……ずっと、笑っていて、ほしかったから……」
だから、何も言わなかった。
余計なことをして、二人の笑顔を曇らせたくは無かった。
エーベルが自分に幸せを、笑顔を取り戻してくれた。
なら、今度は自分が彼の幸せを願おう。
それは、エーベルの言葉にまた前を向くことが出来たあの日に誓ったこと。