Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第8章 涙
「それから、兄さんの身体はどんとん病に蝕まれていって……それで……」
わざわざエミリが言葉にしなくても解る。
一ヶ月後、ファウストは14年という短い人生を終えたのだということを……
大好きな人がいなくなった。
もう、会えない。
声を聞くことも、触れることも出来ない。
二度と笑顔を見せることも無い。
ファウストの笑顔が大好きだったのに。
「……更に一ヶ月後、10歳の誕生日を迎えても全く嬉しくありませんでした」
本来であれば、ファウストも一緒にケーキを食べていたはずなのに、毎年そうやって皆でお祝いをしてきたのに、彼が隣にいないだけでエミリの心はぽっかりと穴が空いたようだった。
「…………とても、辛くて苦しくて、でも……兄さんに言われたんです……」
ファウストが息を引き取る前、エミリに伝えた想い。
『ねえ、エミリ……いつか君を、心の底から愛してくれる人がきっといる。だから……これから、辛いことがあっても、"恋すること"を諦めちゃ駄目だよ。
エミリなら大丈夫。
君は強い子だから
僕はもう、傍にいられないけど……空の上で見守っているから。
だから、どうか……いつまでも君が、幸せでありますように……───』
そして、その後……小さな声でこう言った。
『……エミリ、好き、だよ……』
他に何も言われなくても、エミリはその"好き"の意味を理解した。
『うん……! わたしも……好き……!!』
最期は笑顔でいたかったから、涙を流しながらも精一杯微笑んで、ファウストが永遠の眠りにつく前に……自分の想いを言葉にする。
エミリの返事に満足したファウストは、幸せそうに微笑んで静かに息を引き取った。