Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第8章 涙
「……小さい頃、私、友達とか全然できなくて……だから遊び相手はいつもフィデリオとファウスト兄さんだったんです。
兄さんは元々身体が弱くて、激しい運動はできなかったから一緒に走り回ることはできなかったけど……でも、とっても頼りになる人で、私やフィデリオにとっては、兄のような存在でした」
よく、周りの男の子から暴力女と言われていたエミリだが、そんな彼女をファウストはいつも、『エミリはとっても可愛いよ』と褒めていた。
それは決してお世辞ではなく、彼の本心だった。彼もまた、エミリのことが好きだったから。
エミリとフィデリオが喧嘩した時も、よく仲裁に入って二人の仲を取り持ったりと、本当に頼り甲斐のある人で、グリシャやカルラ、フィデリオの両親も彼を可愛がっていたし、幼いエレンもまたファウストに懐いていた。
それほど人望の厚い人で、親切で優しいファウストは、エミリの憧れだった。
それが恋心へ変わるのに、そう時間は掛からなかった。
「兄さんの診療はいつも、父が担っていました。最初は、大きな病も見られず、体は病弱でもいつも心は元気だった。……けど、ある時、容態が急変して……」
エミリが10歳の誕生日を迎える二ヶ月前の夜、ファウストが急に苦しみ始め呼吸困難に陥ったことがあった。
その報せを受けたグリシャは、すぐにウォール・ローゼの診療所へ向かった。
エミリも着いて行こうとしたが、グリシャにカルラと家で待つように言われ、その日の夜はエレンと寄り添いグリシャの帰りを待った。
明け方、悲痛な面持ちで帰宅したグリシャの表情を見てエミリは察した。
『ファウストは……持って後、一ヶ月の命だ』
それを聞いた時、目の前が真っ暗になった。
どんどん涙が溢れ、気づけばカルラに抱きついて号泣していた。