Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第8章 涙
「…………何も、聞かないんですね」
バウムクーヘンを食べ終え、沈黙が続く空間をエミリの弱々しい声が破った。
「聞いてほしいのか?」
「……よく、わかりません」
エミリは足元へ視線を落とす。
リヴァイに連れ出された時、エーベルのことについて聞かれるのだとばかり思っていたが、そうでは無かった。多分、リヴァイはただ寄り添ってくれているのだろう。
その優しさが嬉しい反面、少し寂しくもあった。
「まあ、話す話さないはお前の勝手だが、誰かに自分の気持ちを打ち明けることで楽になることもあるだろう」
その言葉で分かった気がした。
エミリが何も言いたくないのであれば、こうして傍にいてやる。
話したいことがあるのであれば、話を聞こう。
エミリには、リヴァイがそう言っているように思えた。
「………………私がエーベルと出会ったのは、私が10歳の時でした」
エミリが選んだのは後者。
リヴァイの優しさに、もう自分の気持ちを押し止めることは限界だった。
「初めて彼と会った時、私、ちょっと訳ありで元気が無かったんです。そんな私を会う度に慰めてくれたことがきっかけです」
まだ10歳という幼い子供の自分がした、"二度目"の恋。
もう五年も前になる自分が恋をした話は何だか懐かしく思える。
「いつも私に色んなことを教えてくれて、美味しいお菓子を沢山食べさせてくれて、私が悩んでいる時は一緒に考えて励ましてくれた……エーベルがいたから、私は……辛いことも乗り越えられたんです」
段々、声が震えてきた。
エーベルとの思い出や彼の優しさをこうして並べていくと、気持ちが込み上げて溢れ出しそうだった。
「……でも、わかってました。彼は貴族で、私はいま調査兵……この恋が叶わないことは、わかってた。だから、ずっと一緒にいられる素敵な女性と幸せになってくれたらいいって……そう、思って……いた、のに……」
目に涙が溜まる。
それが流れないよう、必死に、必死に……堪えた。