Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第8章 涙
二人の抱き合う姿に、エミリは大きく息を吐いた。
(……失恋、か……)
ズキズキと胸が痛む。涙が溢れ出しそうだが、唇を噛み締め必死に堪える。ここで泣いては、想いがバレてしまうから。
マンフレート達は二人を祝福していた。皆、嬉しそうだった。それを眺めていると、少しだけ胸の痛みが退いた気がした。
ふと、エルヴィンとハンジと目が合う。エミリを見つけた二人は悲しそうな顔をした。エミリは二人にこれ以上心配を掛けたくなかったため、気持ちを押し込め笑顔を見せた。
「おい」
「!」
背後からドスの効いた声がエミリの耳に入る。振り向いてみると、そこには相変わらず無表情のリヴァイが立っていた。
上官にケーキを任せて置いてきてしまったため、怒られても仕方が無いと思っていたが、リヴァイも部屋の中の様子で察したのだろう。何も言わなかった。
「……へ、兵長、すみません! ケーキ、任せてしまって……」
「…………」
なるべく笑顔を保とうとするエミリだが、彼女の耳は赤くなっていた。声も少し上擦っている。
見え見えの嘘。それでもリヴァイは何も言わず、いつも通り振舞おうとするが、何故だか今すぐエミリを外へ連れ出したい気持ちに駆られた。
しかし、そうすればエーベル達がエミリを気にかけてしまう。
リヴァイからすれば、別にバレてもいいのではないかと思っているが、出来るだけ今は、エミリの気持ちを尊重してやりたかった。
「あの……! いつもお世話になっている御礼に、さっき兵長とケーキを買って来たんです! これ、お二人の御祝いも兼ねてどうぞ!!」
ボロが出ないように、出来るだけいつも通りに笑顔でケーキを差し出せば、エーベルは『ありがとう』と箱を受け取りエミリの頭を優しく撫でる。
「取り敢えず、エーベルが好きそうなの買ってみたんだけど……口に合えばいいな!」
手を後ろで組み、ギュッと握る。
身体の力を抜いてしまえば、泣いてしまいそうだったから。
「ケーキは何でも好きだから大丈夫。美味しく頂くよ!」
「うん!」
好きな人が幸せいっぱいに微笑んでいて、いつもならそれを見るだけでエミリも嬉しかった。幸せだった。
だけど、いまだけは……苦しくて仕方が無かった。