Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第8章 涙
「……バカなこと言わないで下さい」
「え」
いつもより低い声で言い放つエミリの言葉に、シュテフィは俯かせていた顔を上げる。
「地位とか権力とか……私にはそんなのよく分からないけど、でも貴女は、人の弱味に漬け込もうとするような最低な男の所に行って、それで幸せになれるんですか!」
「!!」
納得いかなかった。
兵士でもなく、この一番安全と言われている王都で、エーベルの隣に立てる程の力があるというのに、彼との幸せを簡単に捨てようとするシュテフィの言葉が、どうしても許せなかった。
「それに……告白してもいないのに、分からないとか迷惑かもとか、勝手に決めつけたりしないで! そんなの、やってみなきゃ分からないでしょ?!」
言葉を放つ度に気持ちが高ぶって、シュテフィ相手に言葉遣いも荒くなっていくが、エミリにとってはそんなのどうでも良かった。
「兵長、すみません! コレ、お願いします!!」
「!」
エミリは、ずっと二人のやり取りを見ていたリヴァイにケーキの箱を預け、そしてシュテフィの手を取り足早に歩き出した。
「おい! エミリ!」
「エミリさん!? どこへ……?」
「どこって、エーベルの所に決まってるでしょ!? 兵長、ごめんなさい! 先に屋敷に行ってます!!」
もう一度リヴァイの方へ振り返り、そう言い残したエミリはそのままシュテフィを連れて先に行ってしまった。
取り残されたリヴァイはケーキの箱を持ちながら深い溜息を吐く。
「チッ……どいつもこいつも勝手なことしやがって」
崩さぬよう両手で箱を抱えながら、小さくなって行くエミリとシュテフィを追った。