Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第8章 涙
購入したケーキの箱を慎重に持ちながら屋敷へ向かう。ここからであれば、馬車を使うほどの距離でもない。
ケーキを崩さないよう両手で箱を持ち屋敷へ急ぐ。
「あ」
途中、広場に見知った顔を見つけた。
それは、この間ホフマン家の屋敷で会ったシュテフィだ。
彼女は噴水の近くに設置されてあるベンチに座って顔を俯かせている。表情は見えないが、何やら様子が変だ。
「どうした?」
前を歩いていたリヴァイが、立ち止まってシュテフィの方を見るエミリに気づき声を掛ける。エミリと同じ場所へ視線を動かせば、目に入るのは貴族の女性。
「あの女がどうかしたのか?」
「あ、いえ……この間、エーベルの屋敷で会った人なんですけど……」
そういえば、あの時も彼女の様子に違和感を感じた。
エーベルに会えて嬉しそうにしている反面、どこか元気の無い様子がずっと自分の中に引っ掛かっていた記憶がある。
(……たぶん、エーベルのことなんだろうな)
何となくだが、おそらく間違っていない。所謂"女のカン"というやつだ。
どうすべきか迷う。
同じ男性に想いを寄せる者同士。
嫉妬もあった。
エーベルの隣に立つに相応しい身分と彼女の女性らしさに……
(けど、もしそれで……)
それで、エーベルが幸せになれるというのであれば、シュテフィにその力があるとあうならば、彼女を助けたい。
(……もう、終わらせよう)
そこでやっと、決意が出来た。
顔を上げたエミリは、ゆっくりとシュテフィの方へ歩き出す。
「おい!」
エミリのさっきの言葉から、何となくエミリとシュテフィ、そしてエーベルの関係性を予想していた。
エミリはシュテフィに嫉妬心を抱いているだろうに、シュテフィの元へ駆け寄るエミリの行動が読めず、リヴァイはただ驚いていた。