Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第8章 涙
マフラーが手放せない季節。息を吐くと白い吐息が空中に舞う。寒さのせいで手が悴み身体も凍えそうな感覚に陥る。
それなのに、こんなにも寒いのに、エミリ達の空気もとても冷たいものだった。
(ああ、もう! なんでハンジさんてば巨人のこととなると暴走するのよ!)
マフラーに口元を埋めながら心の中で泣き叫ぶ。
隣には不機嫌な顔で歩くリヴァイがいた。
それは、久しぶりにハンジもエミリ達と共にホフマン家へ訪れたことが原因だった。
いつも宿泊している王都の宿に到着した時、お世話になってばかりだからハンジと差し入れを買うよう、エルヴィンに頼まれていた。
しかし、マンフレートが壁外調査や巨人の話についても聞いてみたいと言っていたことを迎えに来た使用人に教えられたハンジは、買い物係をリヴァイに押し付けエルヴィンと共に先に屋敷へ行ってしまったというわけだ。
そして、エミリはリヴァイと二人で差し入れを買いに行くことになったわけだが、会話が全く無かった。心做しかリヴァイの眉間には皺が増えている。
(……どうしよう。何を話せばいいの!?)
こうしてリヴァイと二人きりになるのは、初めての壁外調査以来。あれから半年以上も経っている。溝が出来ても可笑しくない期間だ。
「…………えっと……兵長、どこのお店に入ればいいですかね?」
「あ? 知るか」
かなりご立腹である。
最悪なことに、店の名前と場所を記した紙はハンジが持ったままだ。なんてことをしてくれたんだ。
本部へ帰ったらモブリットに言いつけてやろう。そして一緒に説教してやる。相手が上官なんてもう知るか。
エミリの歩幅は大きくなっていた。
「じゃあ……とりあえず、あのお店にでも入りますか?」
エミリが指を差したのはケーキ屋だった。
庶民にとっては買おうと思ってもなかなか手が出せるものではない。カップケーキやマフィン、クッキーのような手軽なものくらいだ。
貴族の者達であれば、ケーキなど三時のおやつに出ていても当たり前のようなもの。
「貴族の連中はケーキくらい普通に食えるだろう」
「こういうのは気持ちが大事なんです!!」
そう大切なのは気持ち。
価値ばかり気にしていてはキリがない。
開き直ったエミリは、リヴァイを連れて店の中へ足を踏み入れた。