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Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人

第8章 涙




「ねぇ、エミリ。例の貴族の息子さんとはどうなの?」


食事中、ペトラ達とご飯を食べていると、唐突に彼女から質問を投げられる。フィデリオとオルオもエミリに注目した。

エミリは、シチューを食べていた手を止めて口を開く。


「なんか、好きな人……いるっぽいよ」


その言葉に、その場の空気が固まった気がした。
ペトラとオルオは気まづそうに視線を合わせ、フィデリオは『やっぱりか……』といった様子で溜息を吐く。


「今日、会ったの。すごく綺麗な女の人だった」


脳裏に浮かぶ、シュテフィの姿。

美しい容貌、鈴の音のような優しい声、落ち着いた立ち振る舞い、穏やかな笑顔。
騒がしくて無鉄砲な自分とは全く正反対で、とてもエーベルとお似合いだった。


「で、でも、その二人が両想いって決まったわけじゃねぇだろ。そんな落ち込んでるとお前らしくねぇぞ!」


流石のオルオもエミリのことが心配になったのか、元気の無いエミリに励ましの言葉を送るも反応は無い。


「……うん、ありがと。でも、もういいの。分かってたことだし」

「エミリ……」


早く気持ちを切り替えなくては。

そう思うのに、忘れたくても忘れられなくて……自分をどんどん、苦しめているだけのように感じた。

シチューの入った皿に視線を置いたまま顔を上げないエミリに、フィデリオはやれやれと軽く息をついて口を開く。


「どっちにしてもさ、別にそのままでいいんじゃねーの?」

「え」


そこでようやく、エミリが顔を上げた。


「例え、あの二人が両想いだったとしてもな、お前がエーベルさんを好きでいるのはお前の勝手だろ。無理に忘れようとした方が辛い。それは……お前自身、よく分かってるだろ」

「……!」


フィデリオの言葉にハッとする。

彼の言葉が、以前あった幼い頃の出来事を指しているということはすぐに分かった。

あの時も、忘れられないことで苦しんだ。
現状を受け入れることにも精一杯で、辛かった。


「そう、だね……ありがとう、フィデリオ」


そう言って力なく笑うエミリの頭をフィデリオはガシガシと撫でる。その様子にペトラとオルオも安堵し、四人は食事に戻った。

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