第7章 若獅子と不良娘①~優しいひと~
しばらく歩いて屋敷の奥にある襖の前で幸村は歩みを止め、くるりと振り返って。
「大丈夫。某に任せておくでござる」
不安でいっぱいだった私の胸の内を見透かしたかのように、優しく微笑んだ。
なんでこの人は何も聞かず、得体のしれない初対面の私に、ここまで優しい笑みをくれるのだろう。
不覚にも、不安で…それでも精一杯、片意地はっていた心が、安心してしまうではないか。
「お館様!幸村、ただいま戻りましたでござる」
「おぉ幸村か、入れ」
襖の向こうから低い声が響いて、幸村に手を引かれるまま部屋へと足を踏み入れた。
中には居住まいも、その体躯もどっしりとした、という表現が一番あうような大きなおじさん…幸村いわく屋敷の主人、お館様と呼ばれる人がいた。
促されるままに、お館様の目の前に、幸村より少し下がって座る。
ついてきた佐助は入口の方に座っていて、静かに様子を眺めていた。
「…む?幸村、珍しい娘を連れておるな」
「はい。繁華街で男に襲われていた所に遭遇しまして…」
「…なんと、難儀であったな…幸村が通りかかってよかった…」
「いや!それが、なかなか見事な鞄さばきで男を撃退したのは彼女自身でして…!!」
「ちょっと…!」
そんなことは熱く言わなくてもいい、と繋がれた手を後ろから引っ張ればお館様は面白そうに目を細めて。
「…ほう。それはなかなか威勢のいい娘じゃな」
「それはもう!…まぁそうは言っても治安の悪い所ゆえ、逗留先も決めてないとのことでしたので、こうして連れて参りました」