第6章 蒼き竜と虎の娘⑥~恋~【最終話】
「独眼竜と話をしてな。次男を養子にもらうことにした」
「次男を…?」
「左様」
深く頷いた信玄に、二人は一抹の不安を感じた。
もし、次男が産まれなかったら。
どちらにせよ、武田の血は絶えてしまう。
お嬢には幸せになってもらいたい。
その気持ちは本物だけれど。
お館様の気持ちも考えれば、次男というのも手放しに安心できるほど確実なものではない。
現実は残酷で、想いとはうまく絡んではくれないのがもどかしい。
二人して顔に出ていたのか、信玄公は更に深い笑みを浮かべた。
「良いのじゃ。どうしても次男…もとい、子供を寄越せというのではない。あやつらが武田に対して、負い目を感じながら夫婦になるのも可哀想かろうと思うてな。とってつけたような条件じゃ」
「お館様…」
「幸村、佐助。本当はな、血などどうでも良いのじゃ。人の心を従えるのは、血ではない…同じ、人の心よ。そなたらのような若人がいれば、武田は何も心配はいらんと思うてる」
期待しておるぞ、と言って向けられた力強い笑みに、思わず目頭が熱くなる。
「お、お館様…!」
「幸村!」
「お館さばぁぁ!!」
「幸村ぁぁ!!」
感極まった幸村の両目から、涙が滝のように溢れ出し、武田組名物 殴り愛がはじまった。
「…やれやれ、またいつものがはじまったよ…」
そう呆れたように肩をすくめる佐助も、こぼれる笑みをとめることはできなかった。
何の心配もいらない。
概念にとらわれるより、
それぞれの幸せを掴めばいい。
お嬢。
あなたの生まれ育った武田は、
今日も平和でみんな元気です。