第6章 蒼き竜と虎の娘⑥~恋~【最終話】
「…今の旦那の顔、正に泣き笑いってやつだろうね」
苦笑した佐助に、苦笑を返しながら幸村は縁側に腰かけた。
つい先ほど、この庭先でおきた出来事を思い出して、やっぱり苦笑がこぼれる。
「…かなわぬなぁ…」
こちらの気持ちも、何もかも承知した上で、彼は殴られてくれた。
おまけに、ありがとう、と言ってくれた。
いろんな思いが詰まった、ありがとうを。
今まで傍で彼女を護ってきたことや、彼女の背を押したことも、彼はきっと気付いているだろう。
もちろん、自分が彼女を想っていることも。
「…嫌になっちゃうくらい、イイ男だね~…ホント、やな奴」
「我らのお嬢が選んだ男だ。良い男に決まっておる」
「幸村も充分良い男じゃ。自信を持てい」
「お、お館様!?」
突然後ろから響いた低い声に慌てて廊下を振り返ると、そこには穏やかな笑みの信玄公がいた。
大きな手で、幸村の頭をぽんぽんと撫でてから再び口を開く。