第5章 蒼き竜と虎の娘⑤~約束の杯~
「そうじゃ…本当は父親らしく、一発くらい殴ってやりたい気もするが…それは別の奴に譲るとする」
別の奴。
その言葉に、信玄公以外にも殴られる予定に入っていた人物を思い出す。
悔しいけれど、誰よりもゆきの傍で、
妬けるほど、誰よりもゆきのことを、大事に想っていた
真っ直ぐな男を。
「…元より、そのつもりだ」
殴ったくらいでは、治まらない想いを、彼は抱えているだらう。
それでも、俺だって譲れない。
愛しい女は、たった一人だから。
「そうか」
信玄公は満足気に微笑んで、酒を手にとった。
「独眼竜よ、娘を頼むぞ。…義父よりの一献、受け取ってくれるか」
「有り難く、頂戴する」
必ず幸せにすると、父親に約束した、誓いの杯。
この日の酒の味は、
一生忘れられないと思った…。
○to be continued…○