第3章 思い遣り【忍足 侑士】
〜〜侑士side〜〜
夢子が仕事に行ってから空腹に耐えきれなくなり起き上がる。
「めし…」
テーブルの上にはラップがかけられた朝食。
「目玉焼きとベーコン…
パン焼くか…」
あくびをしつつコーヒーを入れ、パンを焼く。
そして、ふと思い出す。
昨日、夢子は誕生日プレゼントを用意していないと言った。
その時の表情がとても苦しそうで、あの時は申し訳ないとか思ってるんだと思ってた。
けど、今思い出してみると、あれは気まずそうな顔。急に自分と夢子の間に距離があるような気がして来た。
さっきまで、ついさっきまで、同じこの部屋にいたのに
なんだかもう帰ってこない気がして怖かった。
いつだったか、夢子にペアリングを贈った。
それを見た夢子はとても嬉しそうに笑った。
しかし、その後就職した際、結婚指輪以外付けられないの、と気まずそうに言ったのも覚えている。
俺は実習や演習の授業で付け外すことが多くなり、いつしか存在さえ忘れてしまっていた。
「あの指輪…どこしたんやろ」
たまたまコーヒーカップ越しに目に入った棚を開ける。
こんなとこに入ってるわけない、と思いつつ、もしかしたら入れたかもしれないという期待もしていた。
中に見えたのは、ラッピングされた正方形の箱のようなもの。
「?」
なんだろうと不思議に思い、手に取ってみる。
そんな重くもない
開けていいものだろうか。きっと夢子のものだろう。
でもラッピングにプリントされているのは男物の主に時計をメインとした有名ブランドの名前。
「これ…もしかして…」
プレゼントは用意していなかったのではなく、用意したけど渡せない、が正解だったのだろう。
自分が、他人からもらった時計をしたまま帰ったから…
「…あかんわぁ…」
「情けないわぁ…」
「ほんまぁ…はぁ…」
誰が聞いているわけでもない情けない独り言は、1人だと広く感じる部屋に響いて自分の胸を締め付けた。