第2章 神様の瞼が閉じている間に/近藤
「……」
サイレンの音と鉄の臭いのなか、目を覚ませば、頭上には若い女性の緊張した顔があった。
こちらの覚醒を見てとり、彼女の表情は、すなおな悲しみに変じていく。
そのときはこの膝のうえに、俺の頭が乗っているのだとわかると、俺は、彼女のこころをしるのだった。
屯所の道場や、集会で、俺や隊長たちにいつも憧れの視線を向けるすなおな目が、廃墟に倒れる俺を見てどんな色に染まったことだろう。
いつも明るい道場内で転げ回っていたはこの隊服は、いまは返り血にすこし汚れている。
「局長、わたしはあなたに惚れています」
戦場で女性がそんなことを口走ることに、俺はぎょっとした。
「……」
「わたしは女です。女は『誠』をしらないものです。女は愛するもののそばで生きることしかかんがえません。でも…わたしはじぶんの命より、あなたの命より、見ずしらずの市民を重んじます」
「……きみが俺を介抱してくれたんだろ…片思いの相手にひどいことをいうもんだ」
「助けたからこそです…敵を倒し、局長の生命活動を確認したら、わたしは…」
「有事には俺を斬れるかと、自問したくなったわけか」
俺はからだを起こし、女隊士のうなだれた頭をわしわし撫でる。「はこちゃんは彼女にするならサイテーだけど、誠の侍だよ」
「ま、俺のこころにはお妙さん以外ありえないわけだけど…敵は、全員斬ったのか」
「ええ、ここにいた者はすべて」
「きみひとりで?! とんでもない初陣になったな」
「敵のほとんどは副長の向かったほうに配置されていたようでしたから。いまに、副長も捕獲を終えてこちらへ飛んできますよ」
「ありがとう…きみがいてくれてよかった。トシやみんなもそうおもうだろう」
「…」
パトカーのサイレンの音は増えておおきくなり、敵にとって不安を掻き立てるものでしかないそれは、俺たちふたりにとっては安堵となって染み込んだ。
☆
告白しつつ殺すといっちゃう隊士ヒロインでした
戦場で死にゆく兵士は、愛のことばだけをいいつのるそうです 命懸けのなか死を意識すると、愛がより鮮烈に迫るのでしょうか
リクエストありがとうございました!