第9章 生きて、生きて、春が来る/潮江
つぎの夕方、学園内を掃除していたはこさんは、椿の文を受け取ってくれた。
「生徒をすきになることはあり得ないわ。でも、これは受け取らせてもらおうかしら。ひとをすきになることにはなんの罪もないもの」
―――――すきでいていい。
その態度に俺は希望を見た。ふつう、噂になることを恐れて恋文など突き返すだろう。しかしこの女性は勇気ある対応で、若年者の恋を、むげにしないでくれたのだ。
こうして淡い恋の決着を迎えたが、しかし鍛練や実習とおなじように、結果を出すことは、しかしおわりではない。むしろ、そこからはじまるといってもいい。
俺は宣言した。それは敗北であり、しかし挑戦でさえあった。
―――――卒業したら迎えに来ます。
つぎの朝はよく晴れ、やはり障子を開け放して、俺たちは外廊下に出た。
「ほんとうにいいのかよ」
「このままよりいいさ。切られたところの長さに揃えてくれ」
外廊下で、ツラい面持ちを隠せないが俺は仙蔵の髪に鋏を入れる。どこかで鶯が歌い、澄んだ空に響きは吸い込まれる。
「私も決着はついたのだから」
おなじ空に、仙蔵のつぶやきもまた吸い込まれてゆくのだった。
☆
お題は、現代からトリップして事務員になったヒロインと潮江の甘ギャグでした
くださったお題の要素を前面に出せず申しわけなくおもいます…
毎日ネタ出しをしているうち、職員と生徒の関係に潮江ひとりでは立ち向かえないとおもえてきて、どんどんギャグから遠のき、どんな状況でも胆が据わっているであろう仙さまに登場してもらったのです
彼はさらりとボケてくれるので、甘さやギャグが織り込めるはず
そしてなにか妙をもたせるべく、あえて仙蔵の恋にハイライトを当て、ほとんど仙蔵を主役としてみました