第7章 終わりならば、終わりならば/鉢屋
長屋の廊下の向こうに、生気のない人影が現れる。
あの辺りは、兵助と勘右ヱ門の部屋だ。
オレは人影に駆け寄る。
「はこ!」
竹谷はオレを視界に入れると、やはり駆け寄ってきた。
「はこ、おれ、おまえのことすきだ」
「竹谷…」
「勘右ヱ門から聞いたぜ。学園をやめるなんて、おれたちがおまえに惚れたから追い出したみたいになるじゃねーか!」
「……それでも、これ以上亀裂が入るよりはいいって、おもったんだ。いまさら、『じつはおなごでした』と、くの一教室に移ることもできないし、所詮、ここはじぶんの居場所じゃなかったんだ、ってさ」
「亀裂なんか、入ればいいだろ!」
「は…?!」
オレは唖然とし、竹谷自身もおのれのことばに驚きを隠せないまま、つづける。
「壊しちまえばいいんだよ。むかしからそうだっただろ。おれたちはなん度も変わったけど、でもおれたちだった。仲間だからこそおまえが去らなきゃならないなんておかしいぜ。仲間なら、おれたちがおまえをすきになろうとなんだろうと、乗り越えられないことなんかないだろ!」
長屋の庭に、滔々とことばが響く。
「…さっき、鉢屋にも、そういわれたよ」
「…」
「わかったよ、おまえらのいうことは」
夜が白む。
しかし竹谷は東の空を見上げず、瞳を輝かせて、オレを見つめた。
「ほんとうに、きれいな髪だ」
この髪が物珍しくて、くのたまに追いかけられているんだ。しかし、オレはもはや、そのことばを受け止めることができる。
「そりゃどうも」
☆
一話一話が必ずしも時系列順ではない群像のシリーズでしたが、おつきあいありがとうございました
お題は、男装ヒロインを五年生たちが女子として意識しはじめ、関係が変わっていくけれど最後はハッピーエンド、というしっかりしたものでした
できあがったのは、はこがくのたまにいたずらされかけたことで、恋愛に否定的なおもいをもっていたけれど、コンプレックスを乗り越え、全員の恋が新たな段階へ入った、というストーリーです
便宜的にシリーズ名をつけるとしたら、1話めの「花冷えの底」でしょうか…