第7章 終わりならば、終わりならば/鉢屋
「…なあ。おれが死んじまってたら、後悔したか」
医務室から、オレに肩を借りて長屋へ向かう鉢屋は、憂鬱な声でそうつぶやいた。オレと兵助のために、追っ手の忍者に立ち向かったつわ者だが、かなり手酷くやり込められたらしいな。
すっかりしょげかえった鉢屋を見るのはなん年ぶりかと、オレは同情するより、かえってそのさまが最高におかしくおもえ、吹き出しそうになってしまう。
「ふん、まさか…だれが死んでも不思議じゃなかったし、おまえが死んじまっても、オレたちはおまえのぶんまで生きるだけさ」
―――――悲壮なかんがえだ。実習のまえのオレなら、そうおもったことだろう。
しかし、オレたちが学生とはいえ、いつ死んじまってもおかしくないってことは、この一晩でいやというほどおもいしったんだ。兵助が撃たれて転げ落ちたとき、それは否応なしに、あまりに重々しく、突きつけられた。
そして、続々と傷ついて帰還する仲間を目の当たりにするあいだ、オレはすでに、それに降参し、死を受け入れていた。
「そういってくれるとおもった…」
鉢屋もまた、寂しげに笑った。
「おれたちは変わっちまった」
「ああ…」
「だが、いまにはじまったことじゃあない。はこがいてもいなくても、変化はもう止まらないんだ。……おまえ、そとで勘右ヱ門とチャンバラしてただろ」
「…」
「丸聞こえだった。あそこにいたのが新野先生だけでよかったな」
「…騒がせたな」
「まったくだ」
新野先生は、入学したころからオレのことをしり、気遣ってくれた。医務室のまえで騒いだのに、止めなかったんだな。
「……鉢屋も、オレのこと引き留めてくれんのかよ」
「べつに。ただ、おれたちを仲間だとおもうなら、変化があっても、乗り越えられるとおもいそうなもんだけど」
部屋にたどり着き、布団を敷いてやる。鉢屋は枕とともに、そこに寝転がった。
「なにやってんだろ、おれ」ぼそりとつぶやきつつ掛け布団を被る鉢屋を、オレはふしぎにおもいながらも、部屋を出る。